企業における熱中症対策(heat-related-illness)

2022/03/06

 



✅核心温


核心温(深部体温)は42度が限界

→42度以上でタンパク質が熱変性を生じる。


しかし、これを直接計測することはできないので皮膚温、直腸温(腹腔内臓器の代表)や食道温(動脈温度に近似)などから

運動などで上がった皮膚温は運動終了後汗などにより速やかに低下するが

食道温は皮膚温と比較して緩やかに低下し

直腸温は終了後しばらくは上昇する。


✅熱中症


核心温が高温な環境により上昇し

多彩な症状を生じることを『熱中症』とよぶ

症状:めまい、頭痛、吐気、失神(熱失神:heat collapse)

筋痙攣(熱痙攣:heat cramp)→飲水後に一時的な低Na血症により生じることも

食欲低下、全身倦怠感(熱疲労:heat exhaustion)



重症状態になると『うつ熱』という症状になり

体温上昇に伴い臓器不全(熱射病:heat strole)を生じるもの。深部体温40度~で判断などが怪しくなる。


※発熱:視床下部による体温のSet Pointの変更 とは別。



✅体温の調節


-熱産生-


・食事

・運動


-熱放散-


・伝導

・対流

・輻射

・蒸発


発汗と塩分


発汗とその蒸発による放熱。

これは水分やミネラルを消費するため、順序としては血管拡張等の後に生じる。(汗管にはNaやClの再吸収機構がある)



補液-塩分と尿量

水分補給を行うとNaを含む水の方が(細胞外液に近い状態の水分を接種した方が)排尿による水分排出が少なくなることがわかっている。

プロセス:発汗(Na再吸収)→高Na血症→口渇&飲水→急激な補正による低Na血症→腎臓による水分排出



汗の塩分濃度

汗の塩分濃度は汗の量に比例する。

大量にかく汗ほど塩分の喪失割合も大きい。


汗の順化


冬の時期などは汗腺は活動休止状態にあり、汗をかく機能が低下している。

夏になるなどして汗が必要な状況が増えると徐々にすべての汗腺が活性化して多くの汗をかくようになるようになる。これが汗の順化と呼ばれる。

→順化が進んでいない7月頃が最も熱中症による救急搬送が多い。

また、運動による順化と呼ばれる減少もあり、運動を良くして汗をかくようになると上記の汗の塩分濃度にも変化が生じる。運動すれば運動するほど同じ汗の量をかいても塩分の濃度が低くなる(より水に近い汗をかくことができるようになる)現象に生じる。



✅企業における熱中症発生


・WBGT


Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度/暑さ指数)

屋内:0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度

屋外:0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度


暑さのみではなく、実際の環境を加味した(日光や汗で濡れた皮膚)指数。

スポーツ協会ではWBGT31度以上で運動中止などの基準が公表されている


引用:https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid922.html


実際はこれに従うと夏場はほぼ活動不可になるので、救護室の制定など有事の対策を制定した上で実施するしかない。


環境省・気象庁では

WBGT≧33℃ になると都道府県単位で熱中症警戒アラートが発表される。



・作業環境管理による対策


→高温多湿の環境を変える()ことができれば最高ではあるが

すぐには対応できないことが多い。予算の問題もある。

しかし、暑さにより生産性が低下する論文報告などもあるので、根本的には涼しい環境を整えることが望ましい。

局所排気、空調、ミスト散布、休憩室などを設置するのもあり。


・作業管理による対策


→作業服には安全性の上で守らねばならない基準があるが、サイズの変更やファンがついたものなどに変更することが検討できる。

体温≦気温の状況でもファン付きの作業服は有効。

他には作業時間の変更。休憩時間の設定。または作業負荷を下げることも有効な対策になり得る。



・熱中症の(労災)診断基準


労働災害や公務災害における認定基準は2022年現在ない。

→認定基準を定めねばならないほど難解なケースが少なかったため

現状では

『生活環境より暑い環境で身体負荷の高い仕事に従事して、脱水や体温上昇で治療にいたったもの。』

くらいになると概ね認められると思われる。


しかし、『脱水や熱疲労により持病が悪化した』

例:狭心症の作業員が高温環境で脱水を生じて心筋梗塞を生じた。

に関しては労災として認可されないのが現状。


✅熱中症の重症度と応急処置


日本救急医学会の基準


Ⅰ度:水分の自力摂取で症状が回復する状態

Ⅱ度:血管内への補液が必要な状態

Ⅲ度:臓器障害(肝臓、腎臓、脳などの障害、DIC)が生じて集中治療を要する処置


応急処置


1.核心温の測定と正常化

発熱疾患を否定した上で

核心温(直腸、膀胱温)を監視しつつ補液を25度に冷却して点滴静注。体表面を水で濡らして送風(蒸散冷却)


2.脱水の補正

ナトリウム入り補液(心臓と耐糖能に注意しつつ)500~1000mLを30~60分で急速静注しつつ、尿量を計測する。


3.集中治療

39度を下回るまで冷却。シャワーやスプレーで濡らして送風。

冷水浸漬、体温管理システムの併用

ダンドロレンナトリウムによる筋弛緩、DICの治療、CHDF、血漿交換など


現場での対応フローチャートは


https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/dl/05.pdf

より引用


『蓋が開いてないペットボトルを渡し、自力でむせずに飲めなければ搬送!』


✅法令とガイドライン


-法令-

労務管理:時間外労働は2時間以下

→労基則18条、年少則8条、女性則2条


作業環境測定:半月に1回

→安衛則587条、589条、607条、612条


作業環境改善:通風、冷房、熱気の排出

→安衛則606条、608条


作業管理::立入禁止、保護具、水分塩分配備、休憩設備

→安衛則585条、593条、596条、609条、614条、617条


健康診断:特定業務従事者の健康診断

→安衛則13条、45条


-ガイドライン-

職場における熱中症の予防(2021年4月20日付 基発0420第3号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000633853.pdf


WBGTに作業内容と衣類による補正を加えて評価を行い作業環境管理および作業管理を行うもの。


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