異常気圧作業と産業医学
✅物理的環境因子の種類
電離放射線、非電離放射線、騒音、振動、腰痛、温熱環境(熱中症)、異常気圧、磁場、低周波
このうち異常気圧について。
✅異常気圧(高気圧)下となる作業
高気圧作業安全衛生規則に定める業務
・高圧室内業務
→潜函工法その他の圧気工法により、大気圧を超える気圧の作用室又はシャフトの内部において行う作業に限る。
例:トンネル工事、高圧療法に係わる技師
※トンネル掘削時には地下水の漏出に対応するため作業区域を高圧にする。
・潜水業務
→潜水器を用い、かつ、空気圧縮機もしくは手押しポンプによる送気又はボンベからの給気を受けて、水中において行う業務。
例:潜水工事、レジャーダイビングのインストラクター、など
特殊な例を除けばボンベつけて水中に潜れば対象。
※素潜りは異常気圧となる潜水業には含まれない。
✅高気圧下(特に水中)での作業によって生じる問題
1気圧=760mmHg,1013hPa,10.13bar…
はじめに。ゲージ圧力と絶対圧力
ゲージ圧力:大気圧を含まず、純粋に高気圧の原因によって生じた部分を表記
絶対圧力:大気圧を含んで(水面を1気圧として)表記
例:水深10m(10mごとに1気圧ずつ上昇)の場合
→ゲージ圧力では1気圧、絶対圧力では2気圧と表記する。
分圧の制限
過剰な圧力となる各種気体による健康影響
気体の種類ごとに分圧には制限がかかっている(高圧則第15条)
例
・酸素分圧 18kPa以上 160kPa以下
・窒素分圧 400kPa以下
・炭酸ガス分圧 0.5kPa以下
→空気潜水は40mまでになる(窒素分圧がひっかかる)
潜水病(ヘンリーの法則)
温度が一定の環境下において一定量の液体に溶解する気体の質量はその圧力に比例する(ヘンリーの法則)により、高圧作業から低圧(大気圧)に戻る際、高圧下では血中に溶解していた気体が気体に戻ることで塞栓症などを引き起こす。
水中での光・音の電波
-光-
水中での光の屈折率は1.3
→水中では大きさ1.3倍、距離は0.75倍に見え距離の推定が困難になる
または腸の長い赤色に近い色は水分子に吸収され判別が困難になる(黒っぽく見える)
-音-
水中では概ね5倍の速度で音が伝わる
→両耳への到達時間差による音源方向の推定が困難になる。
✅潜水計画とボンベの空気
・空気潜水
通常組成の空気を用いて行う。
窒素分圧が引っかかるので水深40mまでの比較的浅い潜水で用いられる
・窒素酸素混合ガス潜水(ナイトロックス)
成分割合を変更し窒素割合を低くして酸素を多めにした気体。
現夏症予防や減圧時間の短縮がメリット。割合によって酸素分圧に引っかかる可能性があるので酸素分圧および潜水深度に注意
・ヘリウム酸素混合ガス
窒素をへらす、又は完全に排して代わりに人体に影響が少ないヘリウムを混合したもの。
中~深度に用いることができる。
・減圧理論
ヘンリーの法則により溶解度が変化することによる潜水病の対策
『ビュールマン教授の理論』を参考に厚労省から16モデルが発表されている。
✅異常気圧の生態影響
-加圧時-
体液中への気体の溶解による影響
酸素(無味無臭):濃度が濃いと酸素中毒
→呼吸器系炎症、中枢神経系障害、意識障害
窒素(無味無臭):高圧下にて血中に溶け麻酔作用(窒素酔い)
→中枢機能抑制、判断力、記憶力の低下
二酸化炭素(無味無臭):高圧下で炭酸ガス中毒
→中枢神経系、呼吸順関係障害、運動失調
圧力そのものによる影響
聴覚器の圧外傷
→中耳が最も影響を受けやすい
副鼻腔の圧損傷
→前頭洞→篩骨洞→上顎洞の順に多い
肺障害
→最重症例では肺静脈系に漏出することによる空気塞栓
-減圧時-
空気の膨張による影響
肺の過膨張
→肺内で空気が過膨張と破裂、肺胞の空気が動脈に入る
血液中の溶存ガスの気化による血行障害(減圧症)
皮膚型
→四肢体感の痛み、大理石斑
運動器型
→筋肉、大関節痛、bends
呼吸循環器型
→息切れ、頻脈、血圧低下、チアノーゼ、chokes
中枢神経型
→四肢、体幹部知覚障害、意識障害
内耳前庭型
→めまい、起立困難、よろめき
慢性影響
→骨頭・骨幹部の破壊または硬化(無菌性骨壊死)
✅減圧症の防止対策
①段階的な減圧
②最終減圧時O2吸入=N2の除去
③He-O2混合気体の使用
④適正配置と有所見者の就業禁止
⑤作業の適正化
⑥再圧室設備の完備
⑦定期健康診断の実施
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